狩猟採集民ハッザの実験では、分け前が釣り合ったのは少ない側が「取る」ことを許された場合だけでした。筆者は平等を要求の仕組みで保たれるものだと論じます。
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誰もが同じように暮らせる社会を思い描くとき、私たちはつい「持っている人が分けてあげれば良い」と考えます。富める者の寛大さ、強い者の気前の良さ、いわゆる「高貴なる者の義務」です。しかし私は、平等とは持つ側の善意で作られるものではなく、持たない側が「もっとよこせ」と要求できる仕組みがあって初めて保たれるものだと考えます。
手がかりは、人類学が長く「平等社会のお手本」としてきた狩猟採集民にあります。タンザニアのハッザの人々は、獲物や蜂蜜を集落の全員で分け合うことで知られてきました。その平等がどう生まれるのかを確かめるため、米国の研究チームは2026年に学術誌「PNAS Nexus」で、9つの集落の大人117人を対象にした実験を報告しました。参加者は、匿名の集落仲間との間で12枚の食べ物の引換券を分け、8枚対4枚で自分が有利な場合と、4枚対8枚で自分が不利な場合のどちらかに割り当てられます。従来の実験と違うのは、相手に「与える」だけでなく、相手から「取る」ことも許された点です。
結果は、善意の物語とはかけ離れていました。有利な側に置かれた人のうち、相手に分け与えたのは40.9%にとどまり、30.3%は反対に相手からさらに取りました。不利な側に置かれた人は、58.8%が相手から取り返しています。分け前が釣り合いに近づいたのは、少ない側が「取る」ことを許された場合だけでした。研究チームは、ハッザの平等は分け与える側の寛大さではなく、少ない側の要求と、それを当然とする規範によって保たれていると結論づけています。さらに、学校や賃金労働など外の経済に触れた経験が多い人ほど、自分が不利な状態を受け入れやすい傾向も見られました。要求する習慣は、放っておけばすり減っていくものだということです。
ここで、反対の立場から三つの声が上がるでしょう。第一に、「善意や共感こそ平等の土台であり、要求ばかりの社会は分断を生む」という声です。たしかに、感謝も敬意もなく取り合うだけの社会は殺伐とするでしょう。ただ、善意は与える側が蛇口を握る分配です。気分や景気が変われば閉じられ、受け取る側は頭を下げて待つしかありません。慈善が盛んだった時代に貧困が消えなかったことが、それを物語っています。第二に、「制度は善意なしには機能しない」という声があります。この点は一部認めます。税や労働運動の交渉も、相手を同じ人間と見る感覚が欠ければ形骸化します。それでも、善意を制度の前提にするか、制度の潤滑油にするかは別の話です。要求できる仕組みが先にあり、善意はその上に乗る。順序を逆にすれば、善意が尽きた瞬間に平等も消えます。第三に、「取ることが許されれば秩序が崩れる」という心配です。これは「取る」を略奪と混同しています。ハッザ社会で少ない側が要求するのは、分け前を求める権利が共有されているからです。ストライキや団体交渉、再分配を求める投票も同じで、正当な要求の回路を制度として備えることが、むしろ力ずくの奪い合いを防ぎます。
平等の歴史は、持つ側が自ら譲った歴史ではありません。持たない側が声を上げ、要求が権利として認められてきた歴史です。善意に期待するより、要求できる仕組みを整える。平等な社会を本気で望むなら、そちらに力を注ぐべきだと私は考えます。
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